三重県菰野町にある日の出屋製菓さんは、戦後間もない昭和20年代に創業者千種一夫氏が、当時まだ手焼きだった炭酸せんべいをリヤカーを引きながら手売りで売り歩いた所から始まった。名品の「湯の花せんべい」は、味も当時のまま無添加で今も作り続けている。昭和34年の御在所ロープウェイ開通を機に今の缶入になり、パッケージデザインは未だほぼ変わっていない。普遍的で歴史ある、菰野町湯の山温泉の名物お菓子だ。
僕は菰野の隣町である四日市育ちだけど、亡き祖母がよく買ってきては部屋にこの薄ピンクの缶を置いていたのを今でも覚えている。せんべいを食べきった後は、日用品入れとして缶を使っていたような。
現在は創業者の孫にあたる3代目、千種啓資さんが後を継いでいる。啓資さんは元々は家業を継ぐ前、長くアパレル業界にいたんだけど、その人生経験で得た感性を大いに活かし、圧倒的な行動力とセンスで新しいことに次々とチャンレンジしている。その結果、あの「寅さん」とコラボ企画が実現。あの頃、SNSの画面を開くと全国を駆け回り営業に出ていた啓資さんの姿を何度も見た。2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の自粛により多数のホテル旅館からの返品を受け、一時は経営自体を危ぶまれたが、SNSで発信した啓資さんのSOSによって素晴らしい復活劇を遂げた。その後は格式高いアワード「おもてなしセレクション」の金賞獲得、そこからニューヨークソーホー地区にあるギャラリーnow hereで湯の花せんべいが展示されたりした。
と、たくさんの活動実績を述べながらも、僕にとっては、ずっと小さな頃からの懐かしい思い出の名品には変わりなくて、ずっとこれからも残り続けて欲しい思い出の味。
ああでもない、こうでもない。と、いつも試行錯誤している日の出製菓さんの姿に、僕はいつも背中を押されている。
日の出屋製菓 ウェブサイト